批判か、バッシングか。
―教会に対する世論の批判は高まっています。メディアも過剰とも思える批判的な報道を繰り返しています。
櫻井先生
根拠なく特定の個人や団体を批判するのなら、それはバッシングであり許されません。
しかし、政治家が統一教会から選挙協力を受けていることや、統一教会による甚大な被害などを批判するのは、バッシングではなく、むしろ今まで光が当たらなかった部分を白日のもとにさらしたと評価できます。
たしかに昨今のメディア批判により、統一教会の信者の肩身が狭くなっているとの指摘もあります。しかし自らの立場を危うくしたのはそもそも統一教会の信者自身であることを忘れてはいけません。
教会批判に合わせて、文化庁の不作為も追及を
―教会に対する世論の批判を受け、行政も対応を迫られています。
税制面での優遇を外すことや、宗教法人法に基づく解散命令を裁判所経由で出すことが大きく議論されています。統一教会への対応の是非について、お考えをお聞かせください。
櫻井先生
教会側への批判と合わせて、行政側の不作為も追及しなければならないでしょう。
文化庁は、解散請求について定めた宗教法人法81条を独自に解釈して、解散請求を出すことはできないと強弁しています。
しかし、教会側が信者から集めた献金を韓国へと送金していること(=宗教法人法81条に定める”目的外使用”にあたる)、公共の福祉に違反するような霊感商法を行っていること、そして、請求権者として所轄官庁が定められていることなどを踏まえれば、文化庁は解散請求を裁判所に対して出すべきなのです。この点は文化庁には不作為が認められます。
宗教法人法
(解散命令)
第八十一条 裁判所は、宗教法人について左の各号の一に該当する事由があると認めたときは、所轄庁、利害関係人若しくは検察官の請求により又は職権で、その解散を命ずることができる。
一 法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をしたこと。
二 第二条に規定する宗教団体の目的を著しく逸脱した行為をしたこと又は一年以上にわたってその目的のための行為をしないこと。
三 当該宗教法人が第二条第一号に掲げる宗教団体である場合には、礼拝の施設が滅失し、やむを得ない事由がないのにその滅失後二年以上にわたりその施設を備えないこと。
四 一年以上にわたって代表役員及びその代務者を欠いていること。
五 第十四条第一項又は第三十九条第一項の規定による認証に関する認証書を交付した日から一年を経過している場合において、当該宗教法人について第十四条第一項第一号又は第三十九条第一項第三号に掲げる要件を欠いていることが判明したこと。
救済すべき真の被害者は誰か
―元信者をはじめとする被害者救済の必要性も叫ばれています。
「統一教会への追及が強まれば強まるほど現役信者への圧力が強くなり、かえって被害者救済に繋がらないのではないか」とも考えられるのではないでしょうか?先生はどう思われますか?
櫻井先生
そもそも「被害者」とは誰のことを指すのかを考えなくてはなりません。
統一教会の被害者として救済しなくてはならないのは、あくまで教団側から多額のお金を騙し取られてきた信者です。
統一教会バッシングや統一教会信者の方への差別などを懸念する人もいますが、そういう人や信者の方には、まず統一教会が正体を隠した勧誘や霊感商法などの不法行為を反省し、改めてこなかったために批判され、現在は宗教法人の解散請求が論議されているという事実をおさえてもらう必要があります。
「即断・即決」を避けよ
櫻井先生は北大生へ次のように呼びかける。
櫻井先生
自分がおかしい人や団体に誘われていると感じたら、まずは親や友達に相談してください。
一呼吸おけば、口止めや即決を求めているなどの異様な勧誘方法に気がつくはずっです。人生において即断・即決すべきことは一つもありません。ゆっくりと考えて、行動して欲しいと思います。
櫻井義秀(さくらい・よしひで)
北海道大学 大学院文学研究院(社会システム科学講座)教授
1961年生まれ。北海道大学 文学部哲学科卒。文学博士(社会学)。2004年から現職。2017年からは北海道大学 総長補佐(企画・経営、ハラスメント相談室室長)も務める。
専門は宗教社会学、アジア社会研究。
(研究室HP>https://sakurai.cambria.ac/)
『よくわかる宗教学』(平藤喜久子との編著、2015,ミネルヴァ書房)など著書多数。
『統一教会:日本宣教の戦略と韓日祝福』(櫻井義秀・中西尋子著、2010、北海道大学出版会)は昨今の統一教会への関心の高まりを受け第4刷重版となった。
重版を記念して第四刷まえがき「安倍元首相銃撃事件と統一教会への対応をめぐる一考察」が北海道大学出版会のnoteで特別公開されている。
>https://note.com/hokkaido_up/n/nf4f4b6396dcd
取材を終えて
安倍元首相の訃報が流れてから、約3ヶ月。
たとえどんな理由があろうとも、理由もなく人の命を奪うことは決して許されません。しかし「今回の件で、教会側に迷惑をかけ申し訳ない」と繰り返し語る容疑者の母親を見るたび、容疑者の張り裂けるような胸の内に、容疑者が過ごした今までの辛く孤独な生活に、どうしても思いを馳せてしまうのです。
あなた自身を守ることは、あなたの大切な人も守ること。あなた自身やあなたの大事な人を守るために、まずは知ることから始めてみませんか。微力ではありますが、この記事で統一教会の被害者が一人でも減ることを願うばかりです。
「自分なんかが、怪しい団体ましてカルト宗教なんか引っかかるわけがない」
そう意気込む多くの北大生に、この記事が届きますように。
最後になりますが、お忙しい合間を縫って取材に応じていただいた櫻井先生、本当にありがとうございました。(聞き手:永津篤史)
取材・執筆 永津篤史
写真・編集 小室光大