「寮祭でめっちゃ“バカしてる”寮生姿を来年こそは見に来てな」
そう興奮しながら話していたのは友達の寮生だ。
季節は巡り、伝統の恵迪寮祭がやってきた。コロナ禍が落ち着きを見せ、キャンパスライフが戻りつつある今年。3年ぶりに寮祭が一般公開された。
寮祭を通して寮生が伝えたい想いに迫った。
いざ、寮へ
一体、どれほど”バカしてる”のだろうか。期待と一抹の不安を抱えて恵迪寮までやってきた。
「「寮生、めっちゃ“バカしてる”」」
やっぱり去年の彼が言った事は間違ってはいなかったんだ。
寮から溢れる歓声と笑い声、ド派手に装飾された正面玄関を見た時にそう確信した。
独特なモニュメントに引き込まれるように受付へ。
「尖った人が多い」という寮生のイメージとは裏腹な丁寧な口調の説明を受け、寮生お手製のパンフレットをもらったら、いよいよ寮の中へ。
いよいよ恵迪寮に、いや寮祭に来たんだという思いで胸がいっぱいになる。
腹が減っては取材ができぬ
どこからか漂うおいしい匂いに刺激され空腹感が私を襲う。
「そうだ、お昼から何も食べていなかった。」
まずは寮祭グルメを食べよう。取材はそれからだ。
落書きや貼りっぱなしのポスターに覆われた寮内を巡ると『100時間スパイスカレー』という看板に目を奪われた。
恵迪寮で流れる100時間という悠久の時間を感じたい!
ネパール音楽の流れる「居部屋」と呼ばれる居間で待つこと、数分。
見るからにおいしそうなカレーが運ばれてきた。
ドライカレーのようで適度に水分を含んだルーは口の中でパッと崩れ、優しい甘みが口全体に広がる。甘さの中でほのかに香るスパイスが、食欲を誘う。私の皿が空になるのにそう時間はかからなかった。
心地よいスパイスの風味を身にまとい、ゆったりとした時間から身を上げる。
『寮生格付けチェック』
お腹も満たされ、いよいよ「部屋デコ」へ。
「部屋デコ」とは共同生活をする”部屋”ごとに趣向を凝らしたおもてなしのことだ。
某有名テレビ番組が脳裏をよぎる。「部屋デコ」の初陣としては申し分ない。
部屋に入ると待ち構えていたのは、屈強な寮生たち。
今から寮生なら誰でもわかるような3問の格付けクイズを出します。
五感で恵迪寮を感じてください。
3問全問正解者にはとっておきの豪華な料理を
2問正解者にはそこそこの料理を
それ未満の人たちには寮生が普段食べている質素な食事をご馳走します。
恵迪寮歌「都ぞ弥生」の聞き分けや恵迪名物「赤ふん」の正しい巻き方、さらには恵迪寮に流れる水道水と市販飲料水の飲み比べと、寮に関わるユニークな問題が出題された。
ふんどし一枚で立ち続ける寮生の姿は、参加者からシュールな笑いを誘う。
飲み比べ問題では参加者一同、味のみならず匂いからも判別しようと試みる。真剣そのもの。
回答の際には、参加者は実際にA〜Cの部屋に移動する。
他の人と一刻も早く合流したいという思い、勢いよく扉を開ける「浜ちゃん」を切望する思いが沸々と湧いてくる。実際の番組に出演しているかのような体験をすることができた。
聴覚から味覚に至るまで自らの五感をフル活用し、楽しみながら寮の文化を知ることができた。
そして、3問の激闘が終わり・・・
私の目の前には白飯が置かれていた。正解数わずか1問という自らの不甲斐なさを白米で飲み込んだ。
寮生だけでつくる「座」
放射状に棟が伸びる恵迪寮の中心「共用棟」に戻ると、多くの人が何かが始まるのを待っている。
待っていたのは、寮生有志による創作劇「座」だ。
開演のブザーがなると、溢れんばかりの期待を全面に受けて、寮生は舞台を舞った。
題名は「あげパンとシュークリーム」
不慮の事故で死を遂げた主人公が、死後の世界でみずからの半生を振り返るストーリーだ。
寮生が座を通して伝えたかったのは、日々のありがたみ、普段何気なくいる人の大切さではないだろうか。失ってからではなく、大切な人と過ごす今を全力で抱きしめてほしい。寮生は「座」を見た全ての人にそう投げかける。
1時間半におよぶ大作を終えた寮生を暖かい拍手が包みこんだ。
私はしっかりと母の顔を思い浮かべていた。
実はこの「座」、寮生だけで創り上げたものだ。
脚本から出演、音響・照明や大道具小道具に至るまですべて寮生で手がける。