北海道北東に連なる小さな島々(歯舞群島、色丹島、国後島、択捉島)を巡る領土問題は、第二次対戦から70年以上が経った現在もなお日露関係に暗い影を落としている。ともすると深刻なイデオロギー対立を招きかねない領土問題について、異色の視点から切り込んでいる若者がいる。「北方領土系メイド」として活動する水晶えりかさんは「メイド服を着ることによって、領土問題に新しい風を吹き込めていると思う」と語る。(永津篤史)
幼少期から慣れ親しんだロシア文化
水晶さんが育ったのは、北海道東部に位置する釧路市。北方領土と一体の社会経済圏を形成した北方領土隣接地域にこそ含まれていないが、市役所には返還に向けた署名コーナーが設置されているなど領土問題に強い関心を寄せる地域だ。そんな中、北方四島交流事業(いわゆるビザなし交流)に小学5年生の時に初めて参加した。初めての交流会では、北方領土から出向いてきたロシア人と共にドッチボールで汗を流した。ロシア人との交流は、その後に受験を経て進学した中学校でも続けられた。退屈そうにする同級生を尻目に、パワーポイントを使いながら地元の文化を説明するロシア人の話に一人胸をときめかせた。「稚内市に住んでいた小学校2年生の頃には、サハリン在住のロシア人と共にカチューシャ(ソビエト連邦の時代に流行したロシア民謡)を歌った経験もあり、ロシア文化が純粋に好きだったんです」と当時を振り返る。
領土返還は話し合いを続けてこそ
幼い頃から領土問題を考え続けてきた水晶さんだが、返還はあくまで話し合いによってのみなされるべきだという姿勢を貫いている。「日本は武力を使えない以上、武力による領土返還という考え自体が非現実的であると思うし、ロシア人と日本人の親密さを示すためにもビザなし交流などの話し合いの場は必要であると思います」と人間同士の交流が持つ意義を力説した。そんなビザなし交流であるが、現在はウクライナとの戦争もあり実施されていない状況だ。水晶さんはビザなし交流の開催を停止している日本政府に一定の理解を示しながらも早期に再開すべきとし、ビザなし交流がもつ重要性を改めて強調した。
一般のスーツを着るよりは波及できるかも
解決の糸口が見えない領土問題について、水晶さんは日本唯一の「北方領土系メイド」として現在も活動を続けている。「一般のスーツを着るよりも目立つし、名前もすぐに覚えてもらえました」と領土問題に新しい風を吹きこめたことを自負している。地元の根室地域で活動する以外にも、ゲスト出勤という形で釧路やすすきのでもメイド服姿で活動しているという。水晶さんのメイド姿をめがけて来店する人だけではなく、親族が政治的な活動をしている人や領土問題に興味がある人など、訪れる客層は幅広い。
政治色出さぬ展示に苦心
メイド以外にも「北方領土啓発次世代ラボ」(内閣府主催)の活動に加わるなど日々奮闘する水晶さんだが、自らが行うパネル展示の内容を巡って心を砕いたこともあった。今年開催された北大祭では政治色を見せずに展示して欲しいと学園祭を取り仕切る北大祭事務局から事前に要求された。どこまでが「政治色」のある展示なのか釈然としない中、北方領土地域の魅力を発信するという形に絞って展示を行い、訪れた観覧者とも積極的に意見交換をした。「北方領土では鯨が取れるし、国後島では温泉も沸いています。その他にも日本とロシアの文化が混ざりあった特徴的な建築物が北方領土には多くあり、それを写真に収めたいという人もいました」と学祭当日の盛り上がりを振り返った。水晶さんは、返還のためには各自が署名活動や啓発活動などを通じて協力する必要があると強調する。「署名ブースは札幌雪まつりの会場や北海道道庁にも設置されているし、SNSでの発信や啓発を行っている団体に加入する方法もある」と締めくくった。
各種SNSリンクなど
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