「記者解説」とは、北大法学部に在籍する筆者が、学問的研究も含めた様々な分野について不定期で自分なりの見方や考え方を紹介するシリーズである。本日は記念すべき第2回目ということで、私自身が最近学んだ「政教分離原則」について解説したい。なおこの記事では政教分離原則における根拠規定について考察を加えているが、政教分離原則のメイン論点である「目的効果基準」と「総合判断基準」については紙幅の関係上、次回に譲りたい。(永津篤史)
政教分離は「信教の自由」を保障するための制度
まず日本国憲法20条1項は「信教の自由」を定めているが、それとの関係で政教分離とは一体どう捉えることが可能であろうか。
この点については、江籐祥平先生が書かれた『連載 憲法よりもまだ深く 第4回 政治と宗教の分離の果てに・法学セミナー2024年8月 NO.835』の記載が参考になると思う。この文献の中で江籐先生は、「信教の自由は立憲主義の標準装備」と位置付けており、「政教分離は信教の自由そのものを直接保障するものではないが、その根本目的はあくまで信教の自由の確保にある」としている。
日本には、各種の宗教が多元的・重層的に発達してきたが、明治憲法下では国家神道以外の宗教が厳しく弾圧されてきたという歴史がある。そのような反省も踏まえて、信教の自由を確実なものにするために、国家と宗教を分離する政教分離が導入されたといえるだろう。
(注意):政教分離や信教の自由を論じる際には、このような歴史的経緯を踏まえて論述する必要があると考える。私自身も以前までは、精神的自由権の「二重の基準」などを用いて、他の精神的自由権と変わらない論述を展開していた。
政教分離の根拠規定はどれか
筆者が今年から受講を始めた民間の予備校が主催している「答案添削講座」で、政教分離違反を論じる際には、憲法20条3項か、同20条1項、同89条前段、いずれの規定との関係で問題となるのかを正しく示す必要があるとの講評をもらった。この3つの条文をどう理解すればいいのか。
この点について、『憲法判例の射程 第2版』(弘文堂 p.141)では、以下のように説明されている。
「20条3項は国が宗教活動を行う場合を念頭に、20条1項後段と89条前段は国が宗教団体を援助する場面を念頭に置いたもので、各規程が問題とする国の行為類型は異なっていると理解されている」
もっとも判例の中には、疑わしい判例もある。
「津地鎮祭判決」=20条3項、同20条1項、89条前段がいずれも同じ基準で判断されることを確認した上で、それぞれ個別の合憲審査を行った上で合憲判断を出している。
「空知太神社判決」=89条と20条1項後段の合憲審査を行い、20条3項の合憲審査を行っていない。
「孔子廟事件判決」=「本件免除が憲法20条1項後段、89条に違反するか否かについては判断するまでもなく」と判示し、20条3項に適合するか否かの判断のみをもって違憲判決を出している。