「伝統を守るためにまずは知ってほしい」
第319期の寮長を務める福井水月さんに話を聞いた。
福井さんは開催に漕ぎつけられた喜びを語った。
「長きに渡るコロナ禍で、一般の方に寮祭を見せることができなかったので、今回の開催に漕ぎ着けられたのは、素直に嬉しいですね。また開催にあたり、感染対策防止対策などについても、大学とスムーズに交渉することができました。」
ただ、寮の行く末については楽観視しているわけではないようだ。
「コロナ禍によって、ずっと続いてきた寮の伝統が中断してしまった。この中断で寮に対して、”行儀よさ”を求める社会の目がより厳しくなった。」
決して流暢に話すわけではない。しかし福井さんは恵迪寮への溢れる思いをとりこぼさないように、一言一言言葉を紡いだ。
寮生は雄弁に寮の窮乏を訴えるものだとばかり思っていた。しかし簡単に出た言葉よりも、溢れる思いを懸命に掬い上げようとして出た言葉の方が何倍も信用できる、福井さんのインタビューからそう感じた。
これからの寮に対する想いを尋ねると、次のような後輩に対するメッセージを語った。
「私自身は、恵迪寮の文化が大好きなので、残せる文化は全て残したいです。寮の文化を守る第一歩として、まずは今の恵迪寮の全てを知って欲しいです。何事もまず経験して欲しい、これからの後輩にはそう伝えていきたい。」
記事を書いている私自身も、寮生を自分の勝手な型にはめていた。何事もまずは知ることから初めるべきという福井さんの言葉は、取材者の私自身にも戒めともなった。
「風化を避けつつ、大学との妥協点も」
第114回恵迪寮を取りまとめた、寮祭実行委員長の光行奏登さんにもお話を伺った。
私が驚いたのは、一般公開には消極的な大学側との妥協点を探りながら寮祭の準備を進めていたことだ。
「来年以降の寮の存続や、寮のこの先を考えなくていいのなら、大学側と話すらせずに寮祭を強行していましたね。ただ、そうもいかないのでこちら側の主張を最大限 大学側に提示した上で、大学側との妥協点を探しました。大学側から提示された範囲内で、できることをする努力が重要であると感じました。」
「北食前で行う事前告知『北食前情宣』については、声を出してはいけないという制限がつきました。中には北食前情宣は見送るべきだとの声もありました。しかし最終的には、限られた中でできることをしようという意見でまとまり、当日は音楽や太鼓を使った情宣を行いました。」
そう語る光行さんの姿は、寮生は大学側と対決関係にあるという私の固定観念を打ち砕いた。自らの世代の楽しさのみを考えず未来の恵迪寮まで考えて、できることをする。恵迪寮のこの先までをも考える重い責任感を垣間見た。
光行さんは、想いと共に寮祭を次へと託す。
「各時代の寮生が一番楽しいと思える寮祭を行うことが何よりも大事なことだと思います。なので、各時代の寮生の総意で消えていく展示があってもいいとは思います。でも風化して消えていくのは、絶対に避けてほしい。」
今年で114回を数える恵迪寮祭。長い歴史をもつ寮祭は、その時代ごとの寮生色はもちろんのこと、同時に歴史・伝統の重みが感じられる祭りでもある。
熟成された伝統という名の出汁に各時代ごとのスパイスが加わり、寮祭はこれからも続く。
取材・執筆 永津篤史
企画・写真・編集 小室光大
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